この年度末にこなした工事の一つに地すべり対策の水抜きボーリングの現場もあった。
水抜きボーリングは、地すべりが懸念される山などにおいて、横向きにボーリングで孔を開けて地下水を抜き、地形,地質,地下水等の自然条件を変えて斜面安定のバランスを取り、地すべり活動を抑制する目的で行われる工事である。
近年では、姫路鳥取線開通工事の道路の斜面の水抜きで行われたり、トンネルの中でも行ったりしていた。
次の三枚の写真はその時の写真である。
この度行われた水抜きボーリング現場は、とても狭く搬入路も傾斜がきつくて距離もあったので、モノレールでの機材搬入と小型のボーリングマシンで施工を行うことを考えていた。
ところが、あまりに工期が無いとのことで、発注者の意向もあり、無理やり大型のボーリングマシンを搬入して施工を行うこととなった。
キャタピラーでも滑るような狭くて長い急傾斜の林道であったが何とかポイントに辿り着くことができた。
φ150mmの掘削径で50mから60mの横ボーリングを数本行うという工事であったが、硬い地層や崩れやすい地層など、想定外の掘り難さにかなりの苦難を強いられた・・・機材の搬入一つにしても、現場に持って行くだけで大きな時間のロスや施工のロスを生んでしまった・・・
現場は標高も高く、雪も多い・・・猛烈に冷え込み、吹雪でスノーアウト状態で作業を行う日もあった・・・。
しかし、どうであろうがとにかく工期が無く休みも返上で毎日夜中まで作業を行った。
そして3月後半、ようやく工事は無事に終わった。
疲労困憊のやりきった安堵と、てこずった不本意な思いとの複雑な雰囲気が社内には漂っていた・・・。
完成検査も終え、元請の現場主任技術者から私に一本の電話があった。
この方は、80歳を越える大ベテランで、これまでにもあらゆる現場を経験された重きをなす人物である。
施工中は度々私に電話が掛かってきて間に合いそうにない工期について指摘をされる毎日で、正直とてもうっとおしく感じていた。
ところがその一本の電話は違っていた・・・。
「お疲れ様でした。 本当によく頑張られました。 お宅の従業員さんは本当に凄いです。 長年この業界でやってきたが、ここまで頑張ってくれるとはとても驚いた。 本当に素晴らしい教育をなされている 感心をした。 わしはもうこれで引退だけれど、このことは一生忘れませんけえ。 」
と、本当に恐縮をするお言葉をいただいた。
私は答えた
「皆が家族のため,自分のために頑張っているんです・・・それが会社のためにもなり、地域のためにもなりますから・・・。」と。
みんなそれなりに夢を持ち、その思いを胸に、いやなことも楽しいことも繰り返しながら真っ当に日々を過ごしている・・・人生はその毎日の積み重ねである。
とは言え、80歳の大ベテランを唸らせることが出来たというのはとても素晴らしいことである。
今後においてこのことは皆の大きな自信にしてもらいたい。